「算数・数学が得意になる本」

算数・数学が得意になる本 (講談社現代新書)

算数・数学が得意になる本 (講談社現代新書)

最初に言い切っておこう。この本を読んでも、算数・数学は得意にならない。正確には、算数・数学でつまずき易い単元を、「なぜつまずくのか」、「どうやって理解するのか」ということが書かれてある本である。まさに「学問に王道なし」スタイルなので、即効性を期待して買う人にはおすすめできない。

今の小学校の教科書で教えていることって、実はこの本に書かれていることそのままだったりする。「ゆとり」が糾弾されて久しいが、「ゆとり」の本質とは、授業数削減でも、指導内容の削減でもなく、本書で繰り返し述べられる「やり方だけ」の学習法から「理解して使える」学習法への転換であった。だから、僕の算数の授業は基本的にこれである。教科書通りにやっているだけなのだけれどもね。

ただこのやり方は、子どもにとっても、指導者にとっても、非常に回りくどく感じられる方法なのだ。「やり方」だけをパッパと教えて機械的に練習させた方が良いと主張する先生も結構いたりする。有名な百マス計算は「やり方」だけを機械的に練習しているだけなので、本書が述べるような算数力とも言うべき力は全く伸びない。*1多分、「脳の筋肉」とも言うべきもののつきかたが違うんだろうなあ。

しかし、一番の問題は、このような数学的な思考が全く理解できないし、身につかない児童・生徒もいるわけで。感覚で言うと、大体クラスに2〜3人。どれだけ丁寧に、分かりやすく説明しようとしても、その説明に使う言葉の理解からできていなければまったく意味をなさないし、LDやADHDの子ならばなおさらだろう。そういった児童には、「やり方」だけを教えるしか方法がない。本当は、人の何倍も時間をかければ理解できる子ども達なんだけれどね。限られた時間の中で、他の児童との折り合いをつけようと思えばこれしか方法が見つからないのである。さて、そういった子にはどう指導していけばよいのだろう。そういった子どもでも数学的思考を身につけることができる方法、おそらくそれを見つけることが今の算数科教育の課題のような気がする。

さて、本書は実は指導者向けの本ではないわけで、高校生あたりがこれを読むのが一番いいのだろう。次は、お子さんが算数が苦手で、塾に行かせようか迷っている親御さんたちが読むべきだろう。著者と内容を信じて実践すれば、きっと救われる。

*1:あ、これはあくまでも個人的な見解ですよ。