村上春樹「海辺のカフカ」

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (下) (新潮文庫)

海辺のカフカ (下) (新潮文庫)

前から気になっていたので購入。難しい。しかし、美しい。その描写の精巧さに、頭の中がぼうっとして、もやが浮かんでくるような感覚に陥る。おかげで日常生活にも支障をきたしてしまいそうだ。この物語の象徴とは何だろう。作者は何が言いたかったのか。国語教育的な見地から読み取ろうとしても、深く入り込むことはきっとできはしない。一貫して貫かれるのは、「世界はメタファーであること」、そして「わたしはわたしであること」なのだろう。陳腐で安っぽくて下品な表現を使うならば、これは「自分探し」の小説である。この人類の永遠の命題とも言えるこのテーマを、村上春樹は手にとって天に向かって投げ上げ、遥かなる高みに届かせることに成功した。