65daysofstatic「無駄なくカッコいい」

"Japan Tour 2006"
心斎橋クラブクアトロ
サマソニですっかり虜になってしまった我々夫婦です。インストバンド、"65daysofstatic"(以下65) from UK。来日すると聞いて、行かない訳にはいきません。

今日わかったこと。彼らは極めて政治的なメッセージを持ったバンドであるということ。ステージの後ろには、スクリーンがあり、演奏に合わせた映像が流されていた。これはサマソニでは無かった。エレクトロニカ的な手法は、音楽的な面だけでなく、演出面にも用いられていた。映像は、キリストをモチーフにしたもの*1、映画をカットアップして作り上げたもの*2、もちろんオリジナルもあるが、内容は極めて政治的。こいつらの曲には歌詞がないので、ライブを観て初めてわかった。

演奏はよかった。ドラムの手数が多すぎるのは少し気になるものの、映像と相まって観客をぐいぐい引き込んでいく。特に「Await Rescue」はその最たるナンバーだ。2006年度最高のナンバーだと言い切れる。イントロからアウトロまで、かっこいい部分だけでできている。曲を構成する成分の8割以上が「カッコいい」だ。普通ならカッコいいだけを集めてもかっこよくはならんのだろうけど、なぜかカッコいいままなのはきっと、曲の構成、演奏に無駄が無く、しっかりとした計算に基づいているからだと思う。

そう思ったのにも理由がある。今日は「ルルル」という日本人のバンドが前座を務めた。4人編成の轟音バンドだった。なかなかかっこいいバンドで、音からしても65の前座にふさわしいと思った。CDも物販で売ってるらしいので、帰りに買おうかなとも思ったぐらいだ。

しかし、65の演奏が始まった途端、そんな思いはどこかへいってしまった。別に「ルルル」は悪くない。多分ラッシュボールあたりのフェスで出てたのなら、間違いなくCDを買って帰っていただろうと思う。そんな彼らですら、65の前では引き立て役でしかない。格があまりにも違いすぎるのだ。演奏力も、曲の構成も、演出も。そして、最も違いを感じたのは、音楽における「意志」だ。

「ルルル」は、「音楽がやりたい」という「意志」しか感じられなかった。65は、「音楽を用いて何かがしたい」という意志を感じた。単に政治的である、という意味ではない。政治的であるという形態も含めた「意志」である。実験的、挑戦的、確信犯的。こういった言葉がよく似合う「意志」である。
彼らはシェフィールド出身だ。つまり、Arctic Monkeysと同郷だが、その音楽性はまるで違う。スケールは明らかに異なるが、アークティック・モンキーズは明らかに「ルルル」と同じ「意志」を持ったバンドであろう。しかし、65はどうだろう。同郷で、ということを考えるならば、Autechreの影響も少なからずあるように思うのは僕だけだろうか。

今イギリスは、ポストロックリバイバル、ニューカマー・ムーブメント真っ盛りである。「音楽がやりたい」というバンドたちが大量に量産されている中で、65のようなバンドは貴重だろう。むしろこういう状況だからこそ、「音楽を用いて何かがしたい」というバンドの方が怖いよ、きっと。

*1:贖罪がテーマ?

*2:クランプというダンスをドキュメントした「Rize」という映画が使われていたことは分かった。他にもいくつかあったみたいなんだけれど。キリストをモチーフにしたものはなんだろう。「ベン・ハー」?