ゆらゆら帝国「あちら側」

"Live 2006 Osaka"
なんばHatch

ゆら帝はよくわからないバンドだ。歌詞がよくわからない。売れているのか売れていないのかよくわからない。だから、知っている人がいるのかいないのかもよく分からない。一般人レベルの話だけでなく、ヘビーなリスナーでもちゃんと聞いたことない人は多いのではないだろうか。洋楽志向なのか邦楽志向なのかも分からない。ジャンル分けできない。*1なにより似たようなバンドがいない。フロントマンは坂本なんだろうけど、何を考えているのかよくわからない。ついつい坂本に目が行きがちなのだが、実は他のメンバーも負けないくらいわけが分からない。まあ、一番わけわかんないのはバンド名だろうね。なんだ、「ゆらゆら帝国」って。ゆらゆらしてりゃあ棍棒外交もできやしねえぞ。何考えてんのかさっぱりわからない。

たたずまいからして異形。そんなバンドだ、ゆらゆら帝国は。

全てのロックバンドは、線を越えていくことを目指している。線のこちら側には、我々の日常がある。あちら側には我々の日常を超越した非日常がある。ロックとは、日常を超越しようとする欲求を、音で表現するアートである。*2

では、その「非日常」、すなわち「あちら側」はどこにあるのか。結論から言えば、アーティストによって異なるのである。そこがロックの多様性を生み出す源泉となっているわけなんだけれど。「あちら側」は地平線の向こう側、はるか遠くに存在するので、そこへ行くためにみなさんラリっていきましょう。いやいや、非日常とはこの世界そのものだ、このクソッタレの世界をぶっ壊して、俺達の本当の日常を取り戻そうぜ。それとも、「あちら側」は、日常のすぐそばにあるかもね。ほら、例えばそこのマンホールのふたを開ければそこは「あちら側」かもしれないよ。

なんにしてもいいのだけれど、大抵のロックバンドは、自分達が見てきた「あちら側」を音として表す際に、こちら側から見た視点という文体で表すことが多いわけだ。だって、もともとこちら側の人間だもの。

しかし、ゆら帝は違うわけだ。あいつらは存在からして「あちら側」の生き物である空気がぷんぷんとしてくる。生まれも育ちも「あちら側」。きっと夜は墓場で運動会だろう。そんなバンド。そして、そんなライブ。


毎回見るたびに、そんな妄想を膨らまさずにはいられない。ああ、すごいなゆら帝。最後に申し訳程度のライブ評。「タコ物語」は初めてみたけれど、その再現度に衝撃を受けた。「生き物さ〜」までのタメが長い。そして坂本氏の動きが気持ち悪すぎて100点満点。つんざくギターは健在。音がびっくりするくらいよい。とにかく最高。やっぱ好きだわ。ゆら帝

セットリスト:
少年は夢の中
ミーのカー
男は不安定
アイツのテーマ
昆虫ロック
貫通前
急所
タコ物語
2005年世界旅行
侵入
無い!!
すべるバー
夜行性の生き物3匹
ロボットでした
次の夜へ
Evil Car

*1:昔、いわゆるビジュアル系といわれるバンドと対バンツアーをしていたこともある。

*2:だから日常を歌うのはロックじゃないです。