エミリー・ロッダ「ローワンと魔法の地図」

ローワンと魔法の地図  (リンの谷のローワン 1)

ローワンと魔法の地図 (リンの谷のローワン 1)

本好きな子どもに薦められたので読んでみた。正直言うと、こういったファンタジーの類の本はほとんど読んだことが無いので、冒頭の聞き慣れない登場人物の名前や、地名、世界観など飲み込むのにものすごく時間がかかったが、あとはすんなり読めた。

主人公ローワンはものすごく情けない少年で、そんな冴えない彼が、勇気を振り絞って困難を乗り越え、村を救うというお話だ。ありがちなストーリーだなあという印象は否めないが、弱虫のローワンが、困難が襲ってくるたびに逃げ出す大人の仲間達を尻目に、必死で恐怖に耐えながら困難に打ち勝っていく姿が素晴らしい。これは物語のテーマでもあるのだが、「臆病」と「勇気」と「無謀(無知と言い換えてもいい)」の関係性が、ストーリーを通して徹底されていているのに非常に好感が持てた。

作者はいったい、誰をターゲットにして書いたのだろう。あとがきによれば、自分の子どものために作ったお話が元になっているという。きっと作者の子どもはやせっぽっちで、弱虫で、泣き虫なのだろう。しかし作者はそんな子どもに対して、弱虫だから勇気を持てるんだと、逆説的に肯定してみせる。こんな母の優しさがつまったこの本から、いったい何人のやせっぽちの子ども達が勇気づけられただろう。たった一人の子どものために始まったことが、世界中に散らばってなお、その輝きを失わない。本のすばらしさはここにあるのだなあと思った。