『First Impressions Of Earth』/The Strokes

ファースト・インプレッションズ・オブ・アース

ファースト・インプレッションズ・オブ・アース


「都会のねずみ」のその後

ストロークスというと、NY出身。都会的で、モダンで、最先端で(あくまで流行の)、オシャレで、すなわち「洗練」という言葉が良く似合う。しかし、これほど中身の無い言葉に彩られるバンドも珍しいだろう。

彼らのアルバムを聞くと、いつも思い出すことがある。それは、「都会のねずみと田舎のねずみ」というイソップ童話だ。彼らは都会のネズミである。泥臭い田舎はとっても退屈で、モダンな都会の生活を謳歌する。なぜかそんなイメージ。そんな都会のネズミにあこがれて、またはレコード会社が2匹目の「ねずみ」を狙って。メジャーシーンに都会的なねずみが芋を洗うがごとくあふれかえってしまった。これが個人的なガレージ・ロック・リバイバルのイメージ。

でもさ、都会の生活って厳しいよね。
生き馬の目を抜く大都会で、いなかのネズミは恐ろしくって恐ろしくって、とても生きていけないと悟って田舎に帰る。やっぱり自分の生まれ育った町が一番だ。この童話はそんなお話。そんな感じであっと間に淘汰されてしまったバンドたち。ある者は路上で死に、ある者は路地裏で死んだ。ある者は、帰るべきところへ帰ってしまった(ホワイト・ストライブスとか。)。しかし、ただ生きながらえながらも、生まれも育ちも大都会である彼らに、帰るべきところなどないではないか。イソップの物語は、ここで終わる。イソップ童話は、「その後」を描いてはいない。

このアルバムは、そんな彼らの「その後」の物語だ。都会のネズミは、現在のシーンをどう乗り切っているのか。現在進行形で示されるその態度は、都会的な洗練とは少し違った角度から描かれている。どちらかと言えば、エモーショナルで、Vo.ジュリアンのシャウトもけたたましい。完全主義者が作り上げた奇天烈なコード進行の中にも、はっきりと見て取れるポップなメロディー。なりふりかまわぬその姿勢は、泥臭い田舎の視線そのものなのかもしれない。彼らは、都会に田舎を作り出したのだ。「おらが都会。おらが街のロック」。最新鋭でも、最前線でもない。そんなロックを聴かせてくれる。

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【評価】
☆☆☆★★