くるり@大阪城ホール

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音楽好き、というと、避けては通れないのが「誰が好きなんですか?」その悪意のない質問こそが最も厄介で最も手強い難問である。素直に自分が最も好きなバンドの名前を挙げればよいものの、その名を口にするだけで場の空気が凍りついてしまい、「ふーん」やら、「そうなんや」といいった無味乾燥で洋楽好きの良心をえぐるような言葉が放たれることが何よりも恐ろしい。だから誰もが知っているあのアーティストの名を口にしたい。しかし、音楽好き、いや、ロック好きであるという孤高のプライドを保つためにも、POP過ぎるアーティストは避けたい。そこで、そこそこ知名度があり、かつオルタナティブなアーティストの名をそこで口にするのだ。

そう、「くるり」とは、僕にとってそんなバンドだったのだ。



くるりは、日本のロックの良心と呼んでもよいくらい、知性とオルタナティブ志向が強いバンドである。時にはポップに、時にはエレクトリックに奏でられる彼、「岸田繁」のメロディ。しかし、得てして語られるのは、そのひねくれたポップセンスである。難解奇天烈なコード進行を用いて名曲「東京」を書き、その要素を最大限に凝縮した2nd図鑑は、くるりの最高傑作とも言われ、ファンの心を捉えて離さない。さらに、「ばらの花」、「ワンダーフォーゲル」といった屈指の名曲がおさめられている3rdアルバム「TEAM ROCK」からはエレクトリックな要素を加え、進化を続けていた。その集大成とも言える、4th「THE WORLD IS MINE」、原点回帰とも言える、ロックンロールアルバム、5th「アンテナ」。

そして、最新作、「NIKKI」である。「NIKKI」を引っさげたこのツアーのファイナルに、彼らは大阪城ホールという巨大なキャパのハコを選んできた。それでは、前フリがかなり長くなったが、ライブレポート、スタート。

1曲目〜3曲目はNIKKIからの選曲である。まず驚いたのが、ギターの大村達身が弾きまくる、弾きまくる、弾きまくる。あんなにスポットを浴びる達身は初めてだ。達身ファンとしてはもう大興奮である。Voの岸田君の高音が出にくそうなのが少し気になる。

そして4曲目。「ハイウェイ」。意外。アコースティックギターに持ち替えた岸田君が、しっとりと歌い始める。そこから他のメンバーが入ってくるのだが・・・。アコースティックギターに被せて鳴り響く硬〜いギターの音。スティーブ・アルビニですか?達身・・・。
5曲目、「ばらの花」。名曲、しかし、もうひとつ心にくるものがない。なぜだろう?
6曲目からMCを挟んで「Baby I Love You」。さあ、ポップに聞かせた後は、なんと「Army」。これまたびっくり。これが今日の1つ目の山場でした。アウトロが長い長い。ひたすらセッションのように繰り広げられるくるり世界。すげーグルーブ感だ。最高でした。

あれ?まわりは呆然と立っている人多し。なぜ?

ディープに聞かせた後は、NIKKIから2曲、そして、「ロックンロール」へ。これまた意外。開演前に嫁さんと、「ロックンロールはやらねーだろ」という話をしていただけに。聞いてみるとさらに意外。前任ドラマーのクリストファーが叩くのと、ツアードラマーのクリフが叩くのとでは、全く違う曲に聞こえる。クリストファーのは飛び跳ねてる感じだけど、クリフのは平べったく、地をスレスレで飛んでいく疾走感がある。不思議なもんだ。

続いてNIKKIで一番好きな曲かもしれない「Bus To Finsbury」。さらにみんな大好き「水中モーター」、でもってとどめに「ワンダーフォーゲル」。ライブは最高潮。このセットリスト、いやでも盛り上がるな〜。

続く「Morning Paper」。本日の第2の山場。城ホールいっぱいに岸田君のギター音だけが鳴り響いたとき、鳥肌立ちました。マジで。くるりのライブで鳥肌たったのは初めてかもなあ。「ああ、岸田君はこれがしたかったんだ」と思いましたね。アホみたいに広い城ホールで、アホみたいにぎょうさんおる客の前で、アホみたいに自己満足なギターを弾きまくる。最高でしょ。最高にロックです。

んで、ラストは「(It's Only) R'n R Workshop!」。アルバムのラストを飾るこの曲は、ライブのラストにもぴったり収まる。「ロックン・ロール・ワークショップ」。まさに今日のライブを表す最高の言葉だと思います。

でもってアンコール。「Birthday」、「青い空」、「虹」と3曲もやった上に、おまけに「さよなら春の日」。ライブでは初めてやったそうな。

そして第3の山場。ライブ終了後のBGMはThe Whoの「MY GENERATION」。まいったまいった。こないだのオアシスライブもここやたったなあ。やっぱ意識してるのかねえ?なんて勘繰りながら、うきうき気分で帰路につく。

最高でしたね。今年見たライブの中ではダントツで1番でした。何が最高かって、今までの名曲たちが色褪せて聞こえるくらい、「NIKKI」の楽曲が素晴らしかったということ。誰だ、「ばらの花」級の名曲が無いから「NIKKI」は駄目だとか言うやつは?今のくるりにはそんなもん必要ないくらい伸びやかで、最高のライブを見せてくれますよ?総じて不安だった「大ホールでのライブ」も、見事に打ち消してくれました。今までくるりは部屋の中で聞く音楽だったし、今もそう思っている人はたくさんいるでしょう。でも、今のくるりは違う。大ホールでも負けない楽曲と、演奏力と、構成力。くるりファンは、ヘッドフォンを捨て、部屋を出よ。くるりはスピーカーでガンガンかけて聞くバンドに変わったんだなと、思いました。現に、町中のどこかのスピーカーから、くるりの音が鳴ってるじゃないですか。

話は冒頭に戻る。この日から、僕は先の悪意のない質問に対して、「誰もが知っているから、ここで声に出すのにもっとも無難なバンド」としてくるりの名前は出さないことにした。代わりに、「今の日本で最もかっこよく、最も最先端で、最も良心的なロックバンド」として、くるりの名前を出すことにしよう。参りました、くるり。あんたたちのことが大好きです。

セットリスト
1.お祭りわっしょい
2.SUPER STAR
3.RING!RING!RING!
MC
4.ハイウェイ
5.ばらの花
6.THE VERANDA
MC
7.BABY I LOVE YOU
8.ARMY
9.TONIGHT IS THE NIGHT
10.ハローグッバイ
11.虹色の天使
12.ロックンロール
MC
13.BUS TO FINSBURY
14.水中モーター
15.ワンダーフォーゲル
16.MORNING PAPER
メンバー紹介MC
17.(It's Only)R'n R Workshop!

アンコール
18.BIRTHDAY
19.青い空
MC
20.虹
21.さよなら春の日

本日の評価
☆☆☆☆☆(また行きたいなあ・・・。)