Summer Sonic 06 Osaka :Tool

@Intex Osaka Hall 5

異形・異様・異常

知っていました。彼らがすさまじいライブをするバンドだということを。だからそれを体験しに行ったのです。しかし、想像を超えた凄まじさだった場合、いったい僕はどんな感想を口にすればよいのでしょうか。

会場の半分くらいしか埋まっていない観客。みんなリンキンパークを見に行ったのだろう。目の前に外国人の集団がいる。ビール片手に陽気に写真を取り合っているおっさん達だ。こういう集団は、ライブ中にもおおはしゃぎでかなり辟易させられるものなのだが、Toolはそれをさせなかった。開始と共に轟く爆音。ものすごい重低音が腹のそこに叩きつけられて、体が硬直した。隙間無く敷き詰められた轟音は、正に音の壁というに相応しい。そこにのっかるメイナードの咆哮とも言えるボーカルで場内は一気にヒートアップした。いや、正確には、戦慄した。ただ口を開けてあんぐりと見つめるしかできなかった。気がつくと、目の前の外国人は直立不動だった。1曲目が終わった時、体がふっと軽くなった。まるで、体中につけられていたおもりをはずされたように。信じられないようだが、彼らは演奏で重力をも支配する。

鉄壁の演奏力、完璧な歌唱。その上、彼らの異様な世界を表す映像も加われば、そこはこの世ではない。異形の人間らしき生き物がステージ上で跋扈する。もうすでに想像力は限界を超える。理解できるものなど何もない。ただひたすら脈拍はあがり、たっていることがやっとの状態で、この世のものとは思えない世界を網膜に焼き付けられるのだ。動くことすら適わない中で動き回ることができるのは、メイナードか異形の化け物、魑魅魍魎か。スクリーンを背景にしたメイナードは、ただのシルエットと化し、ひらひらと舞っている。ただひたすら恐ろしい。彼が体を動かすたびに、動かないはずの体が震え、おぞましいくらい鳥肌が立つのだ。

そこへ二人の若者が途中入場してくる。彼らはこの場において、あがりまくったテンションで踊り始めたのだ。僕は彼らを化け物だと思った。動いていない者は人間で、目の前で動いているものはすべて化け物である、そう錯覚した。そして、化け物に襲われる前に、ぶん殴ってやろうと思った。しかし、その意志は適える必要がなかった。彼らはToolによって頭を押さえつけられ、その重力の支配下に置かれると、ものの数分で動けない人間に成り下がったからだ。終わるまで、2度ほど逃げ出したくなった。気がつけば、観客はさらに減っていた。思考は鈍り、ひたすら恐怖に耐えた。右斜め前で踊り狂っていた曙のようなおばはんはきっと、化け物だったのだ。僕もきっと、化け物だったのだろう。"Vicarious"のイントロが鳴ったとき、体が動き始めたから。やはりひらひらと舞うメイナードの動きに合わせて、無造作に。

ステージは、ホールの中央に位置している。ステージの後ろには、機材置き場があるのか、広いスペースがある。ステージの左右は、そこへの吹き抜けとなっている。僕は彼らのステージを凝視していた時に、ステージの左手から、巨人が顔を出したのを見た。きっと、ステージの裏に隠れていたのだ。今から僕らを殺しにくるに違いない。ああ、しかし、一体どこに逃げればよいのだろう。ふと我に返ると、ステージの左手に映し出されていたものは、照明にうつるギタリストの影だった。妄想と虚構と想像力の飛躍。重厚なイマジネーション。